INFECTION感染予防と口腔ケア

感染予防には、
「口」の対策こそが重要

感染の基礎知識
− 3要素が揃うと感染成立

感染症は、感染源である病原体が身体に侵入することで生じる疾患のことです。 “感染源”が何らかの“感染経路”をたどって、抵抗力が低い“感受性宿主” の身体に入り込むと、感染源が定着して増殖し、感染します。感染源・感染経路・感受性宿主―3つの要素のどれが欠けても、感染症は成り立ちません。


― 感染源

私たちの周囲には、細菌、ウイルス、真菌(カビ、酵母等)といった目に見えないたくさんの微生物が存在しています。その中で、感染症を起こす微生物を病原体といいます。また回虫などが原因で起こる寄生虫症も感染症の1つです。


― 感染経路

感染源が人や物から人へと広がる主な経路には、接触感染・飛沫感染・空気感染・経口感染などがあります。身体への入り口が、口・鼻・目です。

  • 接触感染
  • 飛沫感染
  • 空気感染
  • 経口感染
― 感受性宿主(かんじゅせいしゅくしゅ)

免疫力が低く、感染しやすい人のことです。高齢、基礎疾患の有無、ワクチン接種の有無、栄養や睡眠の状態など、さまざまな事柄が影響します。

口は感染予防の水際!
鼻の5倍のウイルス量の可能性

感染源となる病原体は口・鼻・目の粘膜から入り込んでいます。とりわけ口は、鼻や目より表面積が広く、感染経路になりやすい部位なので、感染を遮断する「水際対策」の重要ポイントといえるでしょう。

アメリカYale大学の研究*1では、検出されるウイルスの量を鼻の奥と唾液で比較したところ、唾液中のウイルス量の方が約5倍も多かったと報告されています。

*1 Wyllie et al., Saliva is more sensitive for SARS-CoV-2 detection in COVID-19 patients than nasopharyngeal swabs. medRxiv

口のケアで
インフルエンザ・風邪発症率が減少!

感染症の水際対策として重要視されている「口腔ケア」。実際に、口内をケアすることによって感染症の発症率が低下したという研究結果が得られています。

高齢者を対象にした試験で、歯科衛生士によるケアを受けて口腔内の健康を維持したグループは、自分でケアしていただけのグループと比較して、6か月後にインフルエンザ・風邪の発症率がともに有意に抑えられました。

100年前に世界中で大流行し日本でも38万人の死者を出したというスペインインフルエンザ流行の際にも、260人のアメリカ人とイギリス人において、口腔内感染症のあったグループでは罹患率が72%で重症化する人も多く、口腔内感染症のなかったグループでは、罹患率が32%だったといいます。*1

*1 Weston PRIICE 『DENTAL INFECTIONS, Oral and Systemic』1923

<試験概要>

対  象: 高齢男女190人

試験方法: プロによる口腔ケアを受ける群、独自の口腔ケア群に分け、6ヶ月後のインフルエンザ発症率、風邪発症率を比較

出  典: 日歯医薬学会誌:Vol25,27-33.2006「口腔ケアによる細菌性酵素活性の減少とインフルエンザの感染予防」安部修他

研究数は約3倍に!
口腔感染症外来も誕生

感染症対策としての口腔ケアへの注目の高さは、研究論文や文献の数の推移からも見えてきます。2011年には34本でしたが、2019年には100本を超え、3倍近くまで増加しました。

2020年には、口内を徹底的に除菌することで感染や重症化を防ぐ口腔感染症外来を開設する診療所も現れています。

出  典: J dreamの論文・文献数より作成